見つけた 犬としあわせ

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2021/07/14

COVID-19の起源をめぐる決闘

 


◇研究所漏洩経路説:COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の起源を暴露する戦いの内幕

2020年を通じて、新型コロナウイルスが研究所から漏れたという考えは踏み込んではならない概念だった。あえて透明性を追求した人たちは、有害な政治的動機と隠された最優先事項がわたしたちに教えないでおいたという。

ヴァニティ・フェア誌 JUNE 3, 2021 by KATHERINE EBAN


I. Covid-19を調査するDRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team の略)と呼ばれるグループ


Gilles Demaneuf はオークランドにあるニュージーランド銀行のデータ科学研究者だ。彼は10年前にアスペルガー症候群と診断され、それが人より優位に立つ能力を彼にもたらしたと考える。「他の人がまったく見えてない時にデータのパターンを見つけるのが得意」だと彼は言っている。


昨年の初春、世界中の都市がCOVID-19の蔓延を止めるために閉鎖されたとき、Demaneuf(52歳)は病気の原因となるウイルスSARS-CoV-2の起源について研究し始めた。有力な説は2019年後半に最も初期の症例が現れた中国の市場で人間に急激な変化を起こさせる前にコウモリから他の種に襲いかかったというものだった。武漢市の華南卸売市場は魚介、肉、果物、野菜を売る複合市場。一握りの業者がウイルス感染源である可能性のある生きた野生動物を売っていた。


だが、それが唯一の説ではなかった。武漢は中国第一位のコロナウイルス実験研究室の本拠地でもあり、コウモリのサンプルとコウモリ・ウイルス株の世界最大のコレクションに場所を提供していた。中国科学院武漢ウイルス学研究所(WIV)の主任、コロナウイルス研究者のShi Zhengliは2002年に大流行を引き起こし世界で774人が死亡して8000人以上を病気にしたウイルス、SARS-CoVの自然保有宿主としてキクガシラコウモリを最初に特定した人の中に加わる。SARS後、コウモリが世界中のウイルス学者の主要な研究対象となり、Shi はサンプルを集めるために洞窟を大胆に探検したことで中国では「バットウーマン」として知られるようになる。最近では彼女と同僚は病原体をもっとうつりやすくさせる注目を集めている実験を武漢ウイルス学研究所で行った。“機能獲得研究(gain-of-function:培養物に選択圧を加えることにより、微生物の伝染性、病原体、免疫原性および宿主指向性を高めるための微生物の連続継代を指す)”として知られるこのような実験はウイルス学者の間で怒りの激論を招いている。


かなりの人にとって、世界的なパンデミックを引き起こしたウイルスがともかくも武漢ウイルス学研究所のひとつから漏れたのではないかと口にするのは当然のことのように思えた。可能性をShi は激しく否定している。


2020年2月19日、世界で最も一目置かれ大きな影響を及ぼす医学誌のひとつ、ランセット(The Lancet)は、事実上それに気候変動を否定する病的状態や反ワクチン予防接種主義と同類の外国人嫌いを振り当てて、実験室から漏れ出たとする仮説を全面的に否定する声明を発表した。27人の科学者が署名した声明は「中国のすべての科学者と医療専門家との連帯」を表明し、「COVID-19が自然の過程による起源ではないことを示唆する陰謀論を強く非難することでわたしたちは団結している」と主張した。


ランセットの声明は事実上、それが始まる前にCOVID-19の起源に関する議論を殺した。Gilles Demaneufにとってそれはまるで「教会のドアに釘付けされた」かのようで自然起源説を正当として確立した。「誰もがそれに従わなければならなかった。誰もが畏縮させられた。それが全体の雰囲気をつくった。」


ランセットの声明はDemaneuf には「完全に非科学的」なものに思えた。彼には証拠も情報もなにも含まれていないように思えた。そこで、彼は何を見つけるかわからないまま、正しいやり方で自分の調査を始めることにした。


Demaneufは入手可能なデータのパターンを検索することに着手する。パターンを見つけるまでにそう長くはかからなかった。アメリカや他の先進国に相当する安全な実践で中国の実験室は水も漏らさぬと言われている。だが、Demaneufはすぐに2004年以降、SARS関連の4件の研究所違反の出来事があったことを見つけ出した。2件は北京の最上位の研究所で起きる。そこが過密状態のために不適切に非活性化された生きたSARSウイルスが廊下の冷蔵庫に移された。そのあと大学院生が電子顕微鏡室でそれを検査して大発生を突然起こさせる。


Demaneufは、「The Good, the Bad and the Ugly:SARS実験室漏れの再検討」というタイトルの調査結果をMedium postに公開した。その時までに彼はもうひとり、実地調査せずに与えられた記録・報告だけをもとに事件を解く調査員、Rodolphe de Maistreと仕事を始めていた。以前、中国で学び働いていたパリを拠点とする実験室事業ディレクターのRodolphe de Maistreは武漢ウイルス学研究所はとにかく「実験室」だというばかげた考えの正体をすっぱ抜くことに忙しかった。実際、武漢ウイルス学研究所はコロナウイルスに取り組んだ多くの実験室に場所を与えていた。最も高いバイオセーフティプロトコルを有するのはただひとつ、 BSL-4で研究者は独立した酸素を備えた全身加圧スーツを着用する必要があった。


オンラインで繋がったDemaneufとde Maistreは中国のWIV(武漢ウイルス学研究所)の包括的リストを作成し始める。二人が調査結果をツイッターに投稿するとたちまち他の世界中の人々が仲間に加わった。何人かは一流の研究機関の最先端の科学者だった。それ以外は科学オタクである。彼らは一緒にCovid-19を調査するDRASTIC(Decentralized Radical Autonomous Search Team Investigating COVID-19)と呼ばれるグループを結成した。公式の目的は、COVID-19の起源の謎を解くことだった。彼らが「パンドラの箱」を開けないように繰り返し忠告されたと国務省調査官は述べている。


「DRASTICの人たちはアメリカ政府よりすぐれた研究調査をしている」と国務省と契約している元上級調査員のDavid Asherは言う。

問題は、なぜか?である。


II. “A Can of Worms”悔恨の種


2019年12月1日以降、COVID-19 を引き起こすウイルス、SARS-CoV-2は世界中で1億7000万人以上に感染し350万人以上を死亡させた。この新型コロナウイルスがどのように、またはなぜ突然人間の集団に出現したか、今日までわたしたちにはわかっていない。それがどこからきたかを知らなければ、再発を防ぐためにわたしたちが自信を持って正しい措置を講じているとは言えない。


しかもなお、ランセットの声明の結果を受けて、また恐怖を抱かせるアメリカの反アジア人への暴力のうねりに貢献したドナルド・トランプの驚くばかりの人種差別に乗じて、この非常に重要な疑問に対するひとつのあり得る答えは2021年の春まで相変わらず広く踏み込んではならないままだった。

しかしながら、密室では国家安全保障と公衆衛生の専門家、行政機関のさまざまな部門の官僚が、調査できるものとできないもの、公表できるものとできないものをめぐる大ばくちの戦いにはまり込む。


ヴァニティ・フェア誌の何ヶ月もの長い調査、40人を超える人々へのインタビューや内部メモ、議事録、メールでのやり取りを含める数百ページに及ぶアメリカ政府の文書の再検討はあらゆる段階でCOVID-19の起源に関するアメリカの調査を妨げた、物議を醸すウイルス学研究を支える大規模な政府の助成金に一部分由来する利害の衝突を見つけ出す。ある国務省の会議で中国政府から透明性を要求しようと努める当局者はアメリカ政府の資金提供に歓迎されない注目をもたらすので武漢ウイルス学研究所の機能獲得研究を調査しないように同僚から明確に言われたと述べている。


ヴァニティ・フェアが入手した内部メモの中で、国務省の軍備管理・検証・コンプライアンス局(AVC)の元副書記代理であるThomas DiNannoは、続けば「悔恨の種を開ける」ことになるから「COVID-19の起源の調査を追い求めない」と彼の局と国際安全保障不拡散局のスタッフが彼の局内の指揮官に通告したと書いている。


この一年の大部分のあいだ、研究所漏洩説はただ単にありそうもないとかずさんという扱いだけでなく道徳的に限度を超えているとみなされた。3月下旬、疾病対策センターの元長官ロバート・レッドフィールドはCOVID-19は実験室で始まったと考えるとCNNに伝えた後、仲間の科学者から殺害の脅迫を受けた。レッドフィールドはヴァニティ・フェアに「わたしは別の仮説を提案したため、脅迫されて村八分にされた」と語った。「政治家から来るものと思っていた。科学者から来るとは予想しなかった。」


そして透明性のある調査のための活動を中国がどれほど好戦的に阻止したかを考慮すれば、また中国政府のウソをつく、不明瞭にする、意見の相違を粉砕する歴史に照らして、武漢研究所のコロナウイルス研究者主任Shi Zhengliに彼女の実験室からの漏洩をたとえ彼女が望んでいたとしても自由に報告できるかどうか尋ねるのが公平だ。



III. “隠蔽工作が疑われる”


2020年12月9日、今後の武漢への事実調査任務を話し合うために、4つの異なる支局から約12人の国務省の雇い人が世界保健機関(WHO)によって一部分組織されるアメリカ国務省の会議室に集合した。このグループは市場、病院、政府の研究所への自由なアクセスをもって徹底的な信頼できる透明性のある調査を可能にするために中国に圧力をかける必要性に同意した。その後、会話はもっと国家機密などにかかわる微妙な問題へ向けられた:武漢ウイルス学研究所についてアメリカ政府は公けになんと言うべきか?


国務省の軍備管理・検証・コンプライアンス局(AVC)内の小グループが何ヶ月もその研究所を調査していた。このグループは最近、COVID-19の突然の発生が始まっていることを知りようがなかった2019年の秋にコロナウイルスのサンプルの機能獲得研究を行う武漢研究所の3人の研究者が病気になっていたことを示唆する機密情報を取得していた。

 

ヴァニティ・フェアが入手した会議の文書によると、会議の役人が何を国民と共有できるかについて話し合った時、国務省の国際安全保障不拡散局(ISN)の生物政策スタッフ室長クリストファー・パークから機能獲得研究でのアメリカ政府の役割を指すことはなにも言うなと助言を与えられた。


世界で他にテキサスとノースカロライナにある2つの研究所だけが同様の研究を行っていた。「十数の都市ではありません」「3箇所です」とリチャード・エブライト博士は言った。


グループが他の可能性の中でも特に研究所漏洩説を調査したとき、メンバーは「パンドラの箱」を開けないように繰り返し忠告されたとヴァニティ・フェアにインタビューされた4人の元国務省当局者は述べた。警告は「隠蔽工作が疑われる」、「わたしはその一部になるつもりはなかった」とThomas DiNannoは言った。


IV. 抗体反応


アメリカ政府内にはCOVID-19の起源を明らかにすることに取り組んでいる2つの主要なチームがあった。国務省にひとつと、もうひとつは国家安全保障会議の指揮下にあった。パンデミックの開始時、国務省では誰も武漢の研究所にほとんど関心がなかったが、大発生の深刻さの中国の明らかな隠蔽に深刻に関心を持った。中国政府は華南卸売市場を閉鎖し、実験室のサンプルを破棄するよう命じて、COVID-19に関するどんな科学的研究も再検討する権利を主張した、そしてウォールストリートジャーナルの記者チームを追放した。


2020年1月、肺炎はもしかするとSARSの外観かもしれないと同僚たちに用心させようとしたLi Wenliangという武漢の眼科医が社会秩序を見出した罪で逮捕され、自己批判を書くことを余儀なくされた。2月にCOVID-19で亡くなると彼はヒーローであり内部告発者として中国国民からかつぎ上げられる。


「中国政府の威圧政治と隠蔽・弾圧の知識があった」と国務省東アジア局のデビッド・フェイスは述べた。「彼らが隠蔽していること、またWHO世界保健機関に届く情報が信頼できるものであるかどうかを、わたしたちは非常に心配している。」


疑問が渦巻く中、国務省の先頭に立つ中国戦略家のMiles Yuは武漢ウイルス学研究所(WIV)がたいてい沈黙のままだったことに注目した。北京語に堪能なMiles Yuはそのウエブサイトのミラーを設け、研究に関する疑問の余地のある書類をまとめ始めた。4月、彼は当時のポンペオ国務長官に書類を渡した。ポンペオは次にはそこの研究所へのアクセスを政府によって公的に要求した。


Miles Yuの書類がトランプ大統領に届いたかどうかは明らかではない。だが2020年4月30日、国家情報長官室は両義にとれる声明を発表した。声明はどうみても研究所漏洩論(憶測)をめぐる増大する騒動を抑えることが目的なのがわかるものだった。諜報機関界は「COVID-19ウイルスは人工的または遺伝子組み換えによって変化されたものではないという幅広い科学的コンセンサスで一致している」が、「大発生が感染した動物との接触によって始まったのか、それとも武漢の研究所での事故の結果だったのか」重大性を評定し続けるとある。


次には、最高位の爆弾発言投下者が介入した。数時間後の記者会見でトランプは自分の諜報機関当局と矛盾して、ウイルスが武漢ウイルス学研究所で起こったことを示す機密情報を見たと主張したのだ。証拠はなんだったのかと聞かれ、「それは言えない。あなたがたにそれを教えることは許されない」と言った。


トランプの時期尚早の声明は COVID-19の起源の疑問に誠実な答えを模索する誰にとっても水を汚染してだめにした。


政府内には「抗体反応」があった、そこでは実験室起源の可能性のどんな議論も破壊的な排斥主義者の姿勢に結びつけて考えられた。


嫌悪感は国際的な科学者のムラにまで及んだ、科学界の「狂った沈黙」はMiles Yuを苛立たせた。「あえて発言する人は誰でも追放される」と彼は思い起こした。


V. “リスクが高すぎて追求できない”


研究所漏洩の見解が最初にアメリカ国家安全保障会議(NSC)の職員にもたらされたのはタカ派のトランプ支持者からではなくて中国のソーシャルメディアユーザーからだった。彼らは早くも2020年1月に疑惑を共有し始めた。その後、2月に武漢の大学に別々に拠点を構える二人の中国人科学者が共同執筆した研究論文が前刷りとしてオンラインに出現した。それは、大部分のコウモリが冬眠していた真冬にどうやって新型コウモリ・コロナウイルスが中国中部の1100万人の大都市に近づいて、コウモリが売られていなかった市場を急激な発生のエピデミックにしたのか?という根本的な疑問に取り組んだ。


論文は答えを提供した:「わたしたちは魚介市場の周辺地域をスクリーニングして、コウモリ・コロナウイルスについて研究を行っている2つの研究所を特定した。」ひとつは武漢疾病管理予防センターで、華南市場からわずか280メートルのところにあり、何百ものコウモリのサンプルを収集することで知られている。もうひとつは武漢ウイルス学研究所だと研究者らは書いていた。


論文はCOVID-19について驚くほど率直な結論に達した:「致命的な打撃をもたらすコロナウイルスは、おそらく武漢の研究所から生じた... これらの研究所を都市の中心地や他の人口密集地から遠く離れた場所に移転させる規制が取られるかもしれない。」論文はインターネットに出現するとすぐに消されたが、アメリカ政府当局者が気づく前ではなかった。


その時までに、Matthew Pottingerは大量破壊兵器に関連する問題を監督する国家安全保障会議(NSC)の管理職が運営するCOVID-19起源チームを承認していた。長年アジアの専門家で元ジャーナリストのPottingerは、「研究所漏洩の可能性を完全に無視していて、それは不可能だったに傾く非常に多くの人々が政府内にいた」ため、チームを意図的に小さくしたとPottingerは述べた。加えて、多くの先導する専門家が機能獲得研究の資金を受け取っているか、承認していた。彼らの葛藤がある(矛盾する)地位は「偏らない公明正大な調査の従事に対して、混乱させ、見込みを汚すことに大きな役割を果たした」とPottingerは述べた。


機密情報に加えてオープンソースの隅から隅まで目を通したとき、チームのメンバーは、新型コロナウイルスのスパイク・タンパク質が人間の細胞に感染する可能性があることを証明するShi Zhengliとノースカロライナ大学の疫学者ラルフ・バリックによる2015年の研究論文にわけなく遭遇した。被験者としてマウスを使い、彼らは2002年からのSARSウイルスの分子構造に中国の馬蹄形コウモリのタンパク質を挿入して新しい感染性病原体を作り出した。


この機能獲得実験は著者みずからがひるむほど不安に満ちすぎていたため、「科学的調査(再検討)員団は同様の研究を追求するにはリスクが高すぎると考えるかもしれない」と著者らが書いている。実際、研究は「コウモリの集団で現在流行しているウイルスからのSARS-CoV再出現の潜在的なリスク」について警報を出し、世界に警告するつもりだった。この論文の協力者などに対する著者の謝辞は、アメリカ国立衛生研究所からとアメリカ国際開発庁からの助成金を分配するエコヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)という非営利団体からの資金提供に特に言及していた。エコヘルス・アライアンスはランセット誌の声明をまとめるのを助けた動物学者Peter Daszakによって運営されている。


遺伝子操作されたウイルスが武漢ウイルス学研究所から漏れ出たかもしれないことはひとつの憂慮すべきシナリオだった。だが、コウモリのサンプルを集めるための調査旅行が野外での感染または研究室に戻っての感染につながった可能性があった。


国家安全保障会議(NSC)がこれらの異なる手がかりを追跡したとき、アメリカ政府のウイルス学者は2020年4月に最初に提出されたひとつの研究に付箋を貼るよう助言した。共著の23人のうち11人が中国軍の医学研究機関、軍事医学研究院で働いていた。CRISPRとして知られる遺伝子編集技術を用いて研究者らは人間化する(人体に適応させる)肺でマウスを作り変えてSARS-CoV-2への感染性を研究した。


国家安全保障会議(NSC)の職員が研究のタイムラインを確認するために発行日からさかのぼって作業をしたとき、パンデミックが始まる前の2019年の夏のどこかでマウスが作り変えられていたことが明らかになった。それが人間に感染する可能性を確認するため、中国軍は人間化するマウスのモデルを介してウイルス実験などを行っていたのだろうか?とNSC職員はいぶかしく思って過ごした。


研究所漏洩の仮説を支持する重要な証拠を発見したと考えてNSCの調査員は他の機関に連絡を取り始めた。叩きのめされるのはそのときだ。NSCの反拡散・バイオディフェンス(生物防衛)の上級指揮者Anthony Ruggieroが「わたしたちは解散となりおしまいになった」と言った。「反応は非常に敵対的だった」と。


VI. 正確さを求める几帳面な人


2020年夏までにGilles DemaneufはCOVID-19の起源を研究するために一日4時間使い尽くしていた。夜明け前にヨーロッパの協力者とズーム会議に参加してあまり眠らなかった。彼は匿名の電話を受け始め、コンピュータ上の奇妙な動きに気づき、これは中国政府の監視にあるとした。「わたしたちは確かに監視されている」と彼は言う。彼は仕事を暗号化されたプラットフォームSignalとProtonMailに移した。


正確さを求める几帳面な人、Demaneufは、2020年12月11日、北京の2004年SARS研究所漏れは4回ではなく11回の感染につながったことに注意を喚起した。「パンデミックが研究所漏れの一部として始まった場合、スリーマイル島とチェルノブイリが核科学にもたらしたことをウイルス学にもたらす可能性があった。」


30人以上の懐疑的な科学専門家の集まり、パリ・グループは明らかになる手がかりを徹底的に論ずるためにズームによる月1回の数時間におよぶ会議で交わった。パリ・グループの仲間に加わる前、キングズカレッジロンドンでバイオセキュリティが専門のFilippa Lentzos博士は、見当違いのとんでもない陰謀に反対してオンラインで敵を後退させていた。だが、彼女が研究すればするほど、すべての可能性が探られているわけではないことを心にかけるようになった。2020年5月1日、彼女は原子力科学者会議で病原体が武漢ウイルス学研究所からどのように漏れたかを説明する慎重な査定を発表した。武漢ウイルス学研究所のBSL-4ラボの所長Yuan Zhimingによる2019年9月の学術雑誌の論文が中国の研究所の安全上の欠陥について概略を述べていることについて特に言及した。「メンテナンス費用はたいてい怠って看過される」と彼は書いていた。「幾つかのBSL-3ラボは極端に最小限の運用コストで動かすか、場合によってはまったくなにもない。」


マサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学の一般研究所の若き分子生物学者で博士研究員のAlina Chanは、ウイルスの初期の配列がほとんど突然変異の証拠を示していないことを見つけ出す。2002年 SARSの急激な発生でそうだったように、ウイルスが動物から人間に急に襲いかかった場合、多くの適応形態に遭遇することが予想される。ChanにはSARS-CoV-2はすでに「人間の伝染に前適応的性質」だったように思えたと彼女は2020年5月に前刷りの論文で書いた。


だが、おそらく最も驚くべき発見はツイッターで @TheSeeker268として知られる匿名のDRASTICの研究者によるものだ。The Seekerは結局のところ東インド出身の若い元科学教師だ。昨年5月のある日、彼は中国昆明で修士課程の学生が書いた2013年の修士論文を引き出した。その論文は雲南省のコウモリでいっぱいになった坑道に驚くべき知る手段を切り開き、バッドウーマンことShi Zhengliが否定する過程で言及しなかったことについて鋭い疑問を提出したのだ。


VII. 墨江郡の鉱山労働者


2012年、雲南省南部の墨江郡の青々とした山脈で6人の鉱山労働者に鉱山のシャフトの床からコウモリのぶ厚い一面の糞をかき集めるという気乗りしない労役が割り当てられた。堆積硬化したコウモリの糞をさらって採った数週間後、鉱山労働者らは重病になり、雲南省の首都にある昆明医科大学の第一附属病院に送られた。咳、発熱、呼吸困難という彼らの症状は10年前にSARSウイルスの急激な発生に苦しんだ国で警鐘を鳴らした。


病院は、SARS患者の治療で重要な役割を果たし、 COVID-19に関する中国の国家衛生委員会の専門家パネルを率いることになる呼吸器科医Zhong Nanshanを呼んだ。2013年の修士論文によるとZhongはすぐにウイルス感染を疑った。彼は喉の培養と抗体検査を勧めたが、どの種のコウモリが堆積硬化した糞をしたのかも尋ねた。答えは、最初のSARSの突然の発生に関係しているのと同じ種の馬蹄形コウモリだった。


数ヶ月以内に6人の鉱山労働者のうち3人が亡くなった。最も年上(63歳)の労働者が最初に死んだ。血液サンプルは武漢ウイルス学研究所に送られ、SARS抗体陽性だったことが判明した、これは後に中国の論文に記載される。


だが、原因分析による診断の核心に謎があった。コウモリのコロナウイルスが人間に害を及ぼすことは知られていなかった。洞窟の内部の菌株についてなにがそんなに違うのか?見つけ出すために中国全土およびその範囲を越えて研究者チームがコウモリ、トガリネズミ、ネズミからウイルスのサンプルを集めるために廃坑へと旅行した。


2013年10月ネイチャー誌の論考でShi Zhengliは、特定のコウモリのウイルスが最初に媒介する動物にうつることなく人間に感染する可能性があるという重要な発見を報告した。 SARSのような生きたコウモリ・コロナウイルスを初めて分離することにより、彼女のチームはACE2受容体と呼ばれるタンパク質を介してそれが人間の細胞に侵入できることを発見した。


2014年と2016年のその後の研究で彼女と同僚は鉱山の坑道から収集したコウモリ・ウイルスのサンプルの研究を続け、どれが鉱山労働者に感染したかを突き止めようとした。コウモリは複数のコロナウイルスで密生していた。けれども、ゲノムがSARSによく似ているのは一つだけだった。研究者らはそれをRaBtCoV/4991と名付けた。


2020年2月3日、COVID-19の突然の発生はすでに中国を越えて広がっていた、そしてShi Zhengliと数人の同僚はSARS-CoV-2ウイルスの遺伝コードが2002年のアウトブレイクを引き起こしたSARS-CoVのそれとほぼ80%同一であることに言及した論文を発表した。しかし、彼らはまた以前に「雲南省」で検出したRaTG13と呼ばれる彼らが所有しているコロナウイルスの配列と96.2%同一だったと報告した。彼らはRaTG13はSARS-CoV-2に関して認められている最も近いものだと結論づけた。


公開されている遺伝子配列のライブラリーを検索すると、DRASTICの研究者を含む幾つかのチームはすぐにRaTG13がRaBtCoV/4991と全く同じに思えることに気づいた。RaBtCoV/4991は2012年に鉱山労働者がCOVID-19のように見えたもので病気になった洞窟のウイルスだ。


7月、疑問が増すにつれ、Shi Zhengliはサイエンス誌に彼女のラボは透明さを求めてサンプルを改名したと語った。だが、懐疑的な見方をすれば、改名の実行はサンプルの墨江郡の鉱山とのつながりを隠すための努力のように見えた。


Shi、Daszakとその同僚が2010年と2015年のあいだにサンプルを取った630の新規コロナウイルスのアカウントを公表した翌月、疑問が倍増した。補足データの隅から隅まで目を通して、DRASTICの研究者が墨江郡の鉱山からさらに8つのウイルスを見つけてぼうぜんとなった。RaTG13に密接に関連していたがアカウントに付箋をはられていなかった。これらの重要なパズルの一片がコメントなしに埋められていたとは「信じがたい」とBroad InstituteのAlina Chanは述べた。


2020年10月、墨江郡の鉱山のシャフトについて疑問が激化するなか、BBCのジャーナリストのチームが鉱山に近づこうと試みた。彼らは私服警察官に尾行され、都合のよいことには道路が壊れたトラックに塞がれているのに出くわした。


国際的な報道機関からの監視の高まりに直面してShiはBBCに次のように語った。「昆明病院大学の学生の修士論文をちょうどダウンロードしてそれを読んだところです。結論は証拠にも論理にも基づいていません。でも、それはわたしを疑うために陰謀論者によって利用されます。もしあなたがわたしだったら、どうしますか?」


VIII. 機能獲得の議論


2020年1月、アメリカ疾病予防管理センターの所長ロバート・レッドフィールド博士は中国疾病予防管理センターの所長George Fu Gao博士から電話を受けた。Gaoは武漢の市場でさらされた人々に限定されると思われる謎の新型肺炎の出現について説明した。レッドフィールドはすぐに調査を助ける専門家チームを送ることを申し出た。しかし、その幾つかは家族のクラスターである初期の症例の内訳をレッドフィールドが見たとき、市場の説明はほとんど意味をなさなかった。複数の家族が同じ動物との接触で病気になった?レッドフィールドによるとGaoはヒトからヒトへの伝染がないのは当然のことと決め込んでいる。それにもかかわらず、もっと広く地域社会で検査をするようにレッドフィールドは促した。多くの事例が市場とはなんの関係もなかったことをGaoは認めた。はるかに恐ろしいシナリオ、ウイルスはまるでヒトからヒトにうつっているようだった。


レッドフィールドはすぐに武漢ウイルス学研究所のことを考えた。そこの研究者に抗体検査をすることでチームはわずか数週間で突然の発生源としてそこを除外することができた。レッドフィールドは正式に専門家チームを派遣するという申し出を繰り返したが、中国当局は彼の申し出に応じなかった。


目標に向けた鍛錬によるウイルス学者のレッドフィールドは機能獲得研究をめぐる長年の戦いにのめり込んでいたため、いくぶん武漢ウイルス学研究所に気を許さなかった。2011年、ロッテルダムのエラスムス医療センターの研究者Ron Fouchierが遺伝的にマウスより人間に近いフェレット(ケナガイタチ)間で伝染させるためにH5N1鳥インフルエンザ株を遺伝的に改変したと発表したあと、この議論がウイルス学界を巻き込んだ。「おそらく製造できるウイルスのなかで最も危険なウイルスのひとつ」を産んだとFouchierは冷静に宣言した。


結果として続く騒動のなかで科学者らはそのような研究のリスクと利益をめぐって争った。賛成している人たちは潜在的なリスクを強調して、ワクチン開発を加速することでパンデミックに先手を打つことができると主張した。批判者は自然界に存在しない病原体を生み出すことはそれらを解き放つ危険を冒したと主張した。


2014年10月、オバマ政権は、インフルエンザ、MERSまたはSARSウイルスをもっと悪性にするか、もっと伝染するようにする機能獲得研究プロジェクトへの新たな資金提供に支払停止を課した。だが、支払停止を告知する声明の脚注が、「公衆衛生または国家安全保障を保護するために緊急になくてはならない」とみなされる場合については例外を切り開いた。


トランプ政権の最初の年に支払停止は解除され、HHS P3CO Framework(潜在的なパンデミック病原体の配慮と監視を目指して)と呼ばれる再検討システムに置き換えられた。そのような研究の安全性を確実にする責任をそれに資金を提供する連邦省または機関に負わせる。これにより、再検討のプロセスは秘密に包まれたままになった。


イギリス生まれのPeter Daszak(55歳)は、生態系を保護することで新生の病気の急激な発生を防ぐという称賛に値する目標を持つ、ニューヨーク市に拠点を置く非営利団体エコヘルス・アライアンスの社長だ。機能獲得研究への支払停止が告知される5ヶ月前の2014年5月、エコヘルスはざっと370万ドルのNIAID助成金を確保した。これは、コウモリのサンプルを収集すること、型の構築、そしてどの動物のウイルスが人間にうつりうるかを確認するための機能獲得実験を行うことに従事しているさまざまな実体に部分的に割り当てられる。助成金は支払停止もしくはP3COフレームワークの義務のもとに停止されなかった。ニューヨーク州司法長官のチャリティ事務局に正式に提出された税控除の書式990によれば、2018年までにエコヘルス・アライアンスは国防総省、国家安全保障省、アメリカ国際開発庁を含む、ズラリ並べ立てた連邦機関から年間最大1500万ドルの助成金を引っ張り入れていた。Shi Zhengli自身は彼女のカリキュラムの経歴に120万ドルを超えるアメリカ政府の助成金を記載した。2014年から2019年の間にアメリカ国立衛生研究所(NIH)から66万5000ドル、そしてアメリカ国際開発庁(USAID)から同じ時期に55万9500ドル。これらの財源の少なくとも一部はエコヘルス・アライアンスを経由して発送された。


大きな政府の助成金を個々のラボや研究室のための小さな下位の助成金に分配(山分け)するというエコヘルス・アライアンスの実践は、ウイルス学の分野内に桁外れの強い影響を与えた。そのちょっとしたまとまった金額は、それが援助するラボから「たくさんの沈黙の掟を買収する」ことを可能にするとラトガーズ大学のRichard Ebrightは述べた。


パンデミックが激化するにつれ、エコヘルス・アライアンスと武漢ウイルス学研究所とのコラボレーションはトランプ政権の十字線を傷つけた。2020年4月17日、ホワイトハウスのCOVID-19記者会見で陰謀好きな右翼メディア支局のNewsmaxがトランプに中国のレベル4研究所への370万ドルのNIHの助成金について実際に誤った質問をした。「なぜアメリカは中国にそのような助成金を与えるんですか?」と記者は尋ねた。


「我々はあの助成金をすぐにやめる」とトランプは答え、「当時の大統領は誰だったんです、あきれる。」と付け加えた。


一週間後、Daszakに彼の助成金が終わりになったことをNIHの職員が書面で通知した。命令はホワイトハウスから出ていた。アンソニー・ファウチ博士は後に議会委員会の前で証言した。この決定は抗議のあらしを煽った。科学の81人のノーベル賞受賞者がトランプの保健当局に対して公開書簡でこの決定を非難して、TV番組60 Minutesがトランプ政権の近視眼的な科学の政治化に焦点を当てたコマを流した。


Daszakは政治的襲撃事件の犠牲者であるように見えた、トランプ政権の行き詰まった対応から注意をそらすのにファウチ博士とたいていパンデミックによって有名な科学者らが中国を非難するためにうまく配置された。


だが、陰謀に関心がある保守派だけがDaszakを怪しんで見ているのではなかった。Ebrightは、 遠く離れたへんぴなところからサンプルを都会に持ち込み、ウイルスの配列を決定して増殖させ、もっと有毒にするために遺伝子組み換えを試みるDaszakの研究モデルを、「火のついたマッチでガス漏れを探す」ことになぞらえた。さらに、Daszakの研究は世界的なコラボレーションからパンデミックを予測して防ぐという公式の目的に失敗したとEbrightは考えた。


まもなく、情報の自由使用権を求めるU.S. Right to Knowという団体が入手したEメールに基づき、Daszakが彼の役割を隠して科学的合意の印象を形成するために影響力のあるランセットの声明に署名したのみならず、まとめ役になったことが明らかになった。


署名者の少なくとも他の6人がエコヘルス・アライアンスで働いていたか、そこから資金提供を受けていた。ランセットの声明は、「わたしたちは利益競争への関与をみずから認めない」と客観性妥当性の宣言で終わった。


IX. 果し合いをするメモ


2020年の夏までに国務省のCOVID-19起源調査は興が冷め、気乗りしなくなっていた。その秋、国務省チームは外国の情報源から「鍵となる情報はアメリカ諜報機関界が保有するファイルの中に分析されない状態でほっておかれたらしい」との内報を得た。11月、それは「無条件に人目を引き、不都合」であると国務省の元当局者が述べた機密情報を発掘することにつながった。3人の政府関係者がヴァニティ・フェアに語る。全員コロナウイルスの機能獲得研究に関係した武漢ウイルス学研究所の3人の研究者が2019年11月に発病し、COVID-19と同様の症状で病院を訪れたと思われる。国務省内の反応は、「なんてこった」だったと、ある元高官は振り返る。調査は息を返して轟いた。


現在、当局は、実験室漏れの説明となる事実を裏付ける資料を誰かが実際に隠しているのではないかと疑い始めていた。


抑えている極度の不信感が今にも爆発しようとする状態で、国務省チームは実験室漏れ仮説を内密に「レッドチーム」として専門家調査員団を招集した。専門委員団の参加はトランプ支持者による連邦議事堂の暴動の翌日1月7日夜に開催された。


ジョー・バイデンの大統領宣誓の5日前、1月15日に国務省は武漢ウイルス学研究所の活動についてファクトシート(科学的知見に基づく概要書)を発表し、最初に特定された突然の発生の前、2019年秋にそこの幾人かの研究者がCOVID-19のような症状で発病。そしてそこの研究者が秘密のプロジェクトで中国軍とコラボしていて、「少なくとも2017年以降、中国軍に代わってラボの動物実験を含む機密扱いする研究に従事した」とする鍵となる情報を開示した。


X. 武漢への事実調査派遣団


7月初旬、WHO世界保健機関がアメリカ政府に武漢への事実調査派遣団の専門家を推薦するよう求めた。これは長く足止めされたCOVID-19の起源における徹底的調査進展の兆候である。


数週間以内にアメリカ政府はFDAの獣医、CDCの疫学者、そしてNIAIDのウイルス学者、3名の名前をWHOに提出した。だれも選ばれていなかった。代わりに、アメリカからの唯一の代表者、Peter Daszakが予選を通過した。


誰が来ることができて何を見ることができるかを中国が管理することは最初から明らかだった。


2021年1月14日、Daszakと他の12人の国際的な専門家が武漢に到着し、中国の17人の専門家と政府関係者の側近に加わった。彼らは一ヶ月の任務のうち2週間をホテルの部屋に隔離されて過ごした。残る2週間の調査は、調査よりプロパガンダで習近平主席の指導力を称賛する展示会への訪問で完了した。チームは生データをほとんど見なかった、見たのは中国政府の分析のみだった。


彼らは武漢ウイルス学研究所を一回訪問し、そこでShi Zhengliと会った。言うまでもない要求のひとつは、オフラインにされた武漢ウイルス学研究所の約2万2000のウイルスサンプルと配列のデータベースへのアクセスだった。3月10日、ロンドンの組織が開催したイベントでDaszakは、調査団がそのような要求をしたかどうか尋ねられる。彼はまったく必要なかったと述べた。パンデミックの最中ハッキングの試みのために武漢ウイルス学研究所はデータベースを停止したとShi Zhengliは述べた。「完璧に筋が通っている」「それでわれわれはデータを見ることを求めなかった... ご存知のように、この作業の多くはエコヘルス・アライアンスと共に実施されている。要するに、われわれはそのデータベースに何があるかわかっている。まったく単純、そのデータベースにRaTG13よりSARS-CoV-2に近いウイルスの証拠は何一つない」とDaszakは述べた。


実際には、公式にパンデミックが始まる3ヶ月前の2019年9月12日にデータベースはオフラインにされていた。詳細がGilles Demaneufと2人のDRASTICの同僚によって明らかにされる。事実調査結果の2週間後、中国と国際的な専門家は、最も可能性が高いと思われる起源説について挙手による投票によって彼らのミッションを締めくくった。コウモリから人間への直接感染:あるかもしれない。中間動物を介した感染:非常にありそう。冷凍食品を介した感染:可能性あり。実験室での付随事件を介した感染:きわめてありそうもない。


2021年3月30日、世界中のメディアが120ページの派遣団の報告書について報じた。実験室漏れに関する議論は2ページにも満たなかった。Jamie Metzl はその報告を「致命的な欠陥」と呼び、「彼らはすべてを公正に検討するのではなく、ひとつの仮説を証明することを企てた」とツイートした。


ヴァニティ・フェアが取得した派遣団の報告に関するアメリカ政府内部分析ではそれが不正確で矛盾していることがわかった。最も驚くべき批判者はエチオピアの博士、WHO世界保健機関のテドロス事務局長だった。発表日の記者会見で彼は報告書の欠点を認めているようだった。「WHOに関する限り、すべての仮説は検討用に提案されたままである」と彼は言った。「わたしたちはまだウイルスの発生源を見つけていません、わたしたちは科学に従い続け、あらゆる手段を尽くさなければならない」と。


ますます多くの人々が武漢ウイルス学研究所の内部でまさに何が起こっているのか知ることを要求していた。国務省の申し立てにある主張、病気の研究者と秘密の軍の研究は正確だったのか?


派遣団の報告書が公表される一週間前、MetzlはどうにかShiに直接質問することができた。3月23日、ラトガーズ・メディカル・スクールが主催するShiのオンラインレクチャーで武漢ウイルス学研究所で行っている研究とそこが保有するウイルスのすべてについて精通しているかどうか、そして機密の軍事研究が行なわれていたというアメリカ政府は正しかったかどうかMetzlは彼女に尋ねた。彼女は答えた:


XI. 武漢ウイルス学研究所の内部へ


Shiは国際的なウイルス学会議には欠かせない人だったと、長いことテキサスのBSL-4 ガルベストン国立研究所の所長であるJames LeDucは述べた。「彼女はチャーミングな人で英語とフランス語に完璧に堪能だ」とLeDucは言った。

ウイルス学の分野の頂点へのShiの旅は中国最南端のコウモリの洞窟へのトレッキングで始まった。2006年、彼女はフランス、リヨンのBSL-4 Jean Merieux-Inserm研究所で訓練を受けた。彼女は2011年に武漢ウイルス学研究所の新生感染症センターの所長に、2013年にはそこのBSL-3ラボの所長に任命される。


COVID-19の挑戦と対戦する覚悟ができている人は誰であれどこであれ思い浮かばなかった。2019年12月30日午後7時頃、Shiは上司である武漢ウイルス学研究所の所長から電話を受けた。「いま何をしていてもそれをやめて対処するように」と謎の肺炎で入院した患者の幾つかの症例を調査することを彼女に望んだ。


翌日、7人の患者のサンプルを分析することによって彼女のチームは新型のSARS関連のコロナウイルスとして配列を決定し病気を特定した最初のものとなった。1月21日には湖北省COVID-19緊急科学研究専門家グループを率いる人に任命されていた。ぎょっとなる瞬間、科学者の心を高揚させた国で彼女は頂点に達していた。


だが、彼女の昇進には代償が伴った。彼女がまず自由に自分の考えを話せないか、または中国共産党の政策(党綱領)に従わない科学の道を決してたどれないと信じる理由がある。Shiは友人であるガルベストンのJames LeDucと分離されたウイルス・サンプルを共有するつもりだったが、北京当局が彼女を妨害した。そして1月中旬までに中国トップのウイルス学者で生化学の専門家のChen Wei少将が武漢ウイルス学研究所内で作戦を始動した。


奇妙な陰謀説や正当な疑念が彼女を旋回しながら渦を巻くなか、彼女自身からも含め政府からの監視の下で、「汚い口を閉じろ」と彼女は批判者を激しく非難し始めた。


Shiは武漢ウイルス学研究所を、虚偽の主張がつきまとう国際的研究の透明なハブとして描いたが、アメリカ国務省の1月のファクトシート(科学的知見に基づく概要書)は機密の軍事研究を実施し、それを隠す施設として異なる実態を生き生きと描写した。Shiはそれを頑なに否定する。しかし、アメリカの機密資料を再検討した国家安全保障の元当局者は武漢ウイルス学研究所の内部では軍と民間の研究者が「同じ frickingスペースで動物実験を行っている」とヴァニティ・フェアに語った。


XII. Out of the Shadows


アメリカ政府内では実験室漏れの仮説はトランプからバイデンへの移行にもかかわらず生きている。


それでも、4月までは実験室漏れの話はほとんど右翼の報道機関に限定された。議会ではエネルギー通商委員会の共和党少数派が独自の調査を開始したが、民主党からの賛同はほとんどなく、NIH(アメリカ国立衛生研究所)は情報を要求する長いリストに反応を用意しなかった。


5月2日、異なる人種の社会的行動を遺伝子がいかに形づくるかについての論議の的となる本を書いたことで知られるニューヨーク・タイムズの元科学著述家、Nicholas Wadeが媒体(Medium)に関する長いエッセイを発表した時、状況が変わり始めた。その中で、彼は実験室漏れの賛否両論の科学的手がかりを分析し、果たし合いの仮説について報道しなかったことでメディアを非難した。Wadeは、人間の細胞に効率よく入ることを可能にすることでウイルスをすぐ広まるようにするSARS-CoV-2の遺伝子コードの特徴的部分「furin cleavage site」に文章の段落をまるごと捧げた。


科学界の範囲内ではひとつのことがページから飛び込むように目に入った。Wadeは、世界で最も有名な微生物学者のひとり、David Baltimore博士の言葉を引用した。博士はfurin cleavage siteが「ウイルスの起源の決定的証拠」であると信じると言った。ノーベル賞受賞者で分子生物学のパイオニアであるBaltimoreはスティーブ・バノンや陰謀論者からこれ以上ないほど遠く離れていた。furin cleavage siteが遺伝子操作の期待を高めたという彼の判断は真剣に受け止められなければならなかった。


疑問が高まるなか、5月19日にNIHの所長Francis Collins博士は「NIHもNIAIDも、コロナウイルスの人間への伝染性または致死性を高める“機能獲得”研究を支援するいかなる助成金も承認したことはない」と擁護する声明を発表した。


5月24日、WHOの意思決定機関である世界保険総会は年次会議のバーチャル版を始めた。それに先立つ数週間、ウォールストリートジャーナルの2つの一面報道やニューヨーク・タイムズの元科学報道記者からの長文を含め、際立って世間の注目を集める記事のパレードが飛び出した。当然のことながら、中国政府が会議の最中に言い返して、国境内でのさらなる調査に参加しないと述べた。


バイデン大統領が90日間の情報(諜報機関)再検討を発表して2日後の5月28日、ウイルスの起源に関する包括的な調査を開始するようWHOに求める、Jamie Metzlがその具体化を手伝った満場一致の決議をアメリカ上院が可決した。


わたしたちは真実を知ることができるのか?スタンフォード大学医学部のDavid Relman博士は、COVID-19の起源を調査するのに9/11委員会のような調査を提唱してきている。だが、9/11 は一日で起きたのに対して「これには国を超えて、あまりにも多くの異なる発現、成り行き、反応がある。そのすべてが、それを百次元の問題にしている。」

より大きな問題は多くの時間が経過したことだ。「世界は古びた感じを与え物事は立ち去る、そして生物学的な兆候は劣化する」と彼は言った。


中国は明らかに調査官を妨害することに責任を負っている。それが純粋な権威主義的な習慣からなのか、それとも実験室漏れがあってそれを隠すためだったのかは、知り得ない。


現在、少なくとも、Gilles DemaneufとJamie Metzlが最初から望んでいたような性質の標準の取調べはあるようだ。


実験室漏れの説明となる事実が的確を証明できれば、ダムを破ったと歴史はDemaneufと彼の仲間の疑惑者をほめるかもしれない。彼らはいま、武漢ウイルス学研究所の建設命令、下水産出物、そして携帯電話の送受信通報を調査することに深くハマっている。パリグループの共同創設者、Virginie Courtierを前進させるのは、「答えのない問題はあるし、ほんの少数の人間が答えを知っている」と気取らない考え方だ。


https://www.vanityfair.com/news/2021/06/the-lab-leak-theory-inside-the-fight-to-uncover-covid-19s-origins 

CNN 2021.06.17 

https://www.cnn.co.jp/usa/35172494-2.html

米厚生省の監察官は6月15日、国立衛生研究所(NIH)による研究助成プログラムの運用や監督のあり方を調査する方針を明らかにした。このプログラムには、共和党議員が着目する中国・武漢の研究所関連の資金も含まれている公算が大きい。

共和党はこのところ、NIHと非営利団体「エコヘルス・アライアンス」との関係を追及している。エコヘルス・アライアンスは武漢ウイルス学研究所の一部の研究に資金提供している。共和党はNIH傘下の国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長を批判し、政治的な点数を稼ぐ狙いがある。

米国などでは現在、新型コロナウイルスの起源や武漢ウイルス学研究所の役割をめぐる疑問が再燃している。

厚生省監察総監室の報道責任者はCNNに対し、「われわれはNIH助成金の法令順守と監督に関する利害関係者の懸念を共有している。この問題については以前から注視しており、助成金プログラムの健全性を脅かしうる重要問題と認識している」と述べた。

NIHからの資金のうち約8割は研究助成に充てられ、外国組織への助成金も含まれている。監察官の調査では、こうした助成金に対する監督のあり方を調べ、受け取り手による助成金の使用や管理が連邦政府の要件を順守しているか確認する方針。

匿名で取材に応じたNIH当局者の1人は、調査には「政治的」な性質があるとしつつも、最終的には良いことであり、NIHへの疑惑の払しょくにつながるだろうとの見方を示した。

ファウチ氏は今年の議会証言で、NIHがエコヘルス・アライアンスに拠出した資金について、数十万ドルが武漢研究所のコウモリコロナウイルス研究に充てられたことを確認した。これを受け、NIHとエコヘルス・アライアンスの関係に疑問を投げかける声が強まっている。

ファウチ氏を巡っては、CNNを含む報道機関が先ごろファウチ氏がやりとりしたメールを報道。エコヘルス・アライアンスの幹部が昨年4月にファウチ氏に宛てたメールには、科学的な証拠からはコロナの自然起源が支持され、研究所由来は支持されないとファウチ氏が公言してくれたことに謝意を示す内容があった。

ファウチ氏はこのメールは誤解されており、同氏が武漢研究所の関係者と癒着しているとの主張を「ばかげている」と批判。コロナの起源については、動物から人間への感染が最も可能性が高いとの見方を示しつつも、他の発生源の可能性についても排除せず、研究所から漏れた可能性もありうるとの見解を示していた。

米情報機関の最近の報告書では、武漢ウイルス学研究所の研究者数人が2019年11月に体調不良を訴え、入院していたことが判明。体調不良の要因は不明で、研究者らが新型コロナウイルスに感染したことを示す情報はない。同研究所は報告書の内容を強く否定し、いわゆる「研究所流出説」を押し出す目的のうそと反発している。

新型コロナウイルスの世界的流行がどのように始まったのかについては諸説ある。第一に、自然界で発生したウイルスが動物から人間にうつったとの説。第二に、こうした自然由来のウイルスが実験室で研究され、誤って誰かに感染したとの説。第三の説として、研究者の大半は疑問視しているものの、実験室で人工合成されたウイルスが何らかの形で漏えいしたとの説もある。


写真は中国湖北省武漢市の武漢ウイルス学研究所