見つけた 犬としあわせ

こころがどきどきするもの見つけたとき、それを作品にしたり、思わずなにかの形にして人に伝えたくなります。 見つけたとき感じたしあわせ感覚がひとしずくでも誰かに伝わったら、ダブルでハッピーです。

2022/08/14

酔いどれ詩人 シェイン

 


あつぎのえいがかんkikiにおりてきたドキュメンタリー映画『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』の最終日に間に合いました。

監督はジュリアン・テンプル。製作にはシェインと30年来のつきあいがあるジョニー・デップが参加。彼は映画のなかでシェインといっしょにのんだくれながら話を聞くこともやっていて、シェインからは「あまったるい顔をしたシュガー野郎」と言われたりします。


伝説のアイリッシュパンクバンド、“ザ・ポーグス”のフロントマン、シェイン・マガウアンのめちゃくちゃいっちゃってる音楽人生を、シェインのインタビュー映像、ライヴ映像、そしてイラストレーター、ラルフ・ステッドマンによるアニメーションをコラージュすることで、たとえポーグスを知らなくても、冒頭からわくわくするようにジュリアン・テンプルが描きます。


おっと、ラルフ・ステッドマンはゴンゾー作家ハンター・S・トンプソンとのコラボで知られる風刺画家です。





シェインはアイリッシュ。セックス・ピストルズのボーカル、ジョン・ライドンの自伝「Rotten: No Irish, No Blacks, No Dogs」(不愉快:アイルランド人、黒人、犬はお断り)からもわかるとおり、階級社会でもあるイギリスでのアイルランド人の地位は低かった。

アイリッシュは白人であるにもかかわらず、「白い黒人」と呼ばれる存在とも言われ、シェインもイギリスに移住してからは「パディ」という蔑称で呼ばれもし、差別的な暴力も受ける。

学校での成績は優秀で、奨学生に選ばれたときには息子についてどこまでも限りなく肯定的な両親を喜ばせもする。ちょうどその頃、「血の日曜日」事件が勃発(1972年1月)。北アイルランドのロンドンデリーでデモ行進をしていた武器を持たない市民がイギリス陸軍によって銃撃され、多くの死傷者を出す。

シェインの実家はむかしむかし、IRAの隠れがだったそう。映画のインタビューのなかでシェインは、IRAに加わりたかったけど、勇気がなかった、その罪悪感から、ポーグスをやっているというようなことを言っている。IRAを支持する層は実はかなり多い。映画のインタビュアーのひとりは、IRAと密接な関係にあったシン・フェイン党の元党首、ジェリー・アダムズだ。


最高におもしろかったのが、ツアーでニュージーランドに行ったときのシェインのはなし。ぶっとんだシェインがマオリ族から“青く塗れ”と言われて、ホテルの部屋中、裸になった自分の全身を青く塗ったという体験談。この時のシェインの頭の中を描くのがラルフ・ステッドマンのイラスト。


ステッドマンはフランシス・ウィリアムズ挿絵賞やWHスミス挿絵賞など数々の賞を受賞。1979年にはアメリカン・インスティテュート・オブ・グラフィック・アーツの年間最優秀イラストレーターに選ばれている。彼はジョニー・デップとも交流があり、彼のキャリアを追ったドキュメンタリー映画『マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン』(2012)ではジョニー・デップがインタビューとナレーションを受け持っている。



さて、ごろごろと無数の骸骨が地面に積まれているなかで3人の男が踊っているイラスト。この青い絵はドラッグをやったシェインの幻覚を描いたもの。裸の男たちはマオリ族だとシェインは言っている。他にもラルフ・ステッドマンのイラストがシェインの人生を語る重要なポイントで効いている。


シェインは読書家だった。ジェームズ・ジョイス、イエーツを読んでいることがわかる。彼が、“裸のランチ”、“ジャンキー”の著者で知られるビート作家ウイリアム・バロウズの本を読んでることも、あとで知る。


参考:https://screenonline.jp/_ct/17541905

参考:https://news.mynavi.jp/article/20220602-2357500/

参考:映画「マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン」

http://www.zaziefilms.com/steadman/


△ピーターバラカンによるラルフ・ステッドマン

ハンター・S・トンプソンは、とにかくお酒を飲んだりドラッグをやったり、もうドロドロのとんでもない行動がともなう取材について1967年に創刊された『ローリング・ストーン』という、最初はサンフランシスコを拠点にした若者文化の象徴のような雑誌に書いていました。

『ローリング・ストーン』は、あの当時は完全にオルタナティヴの媒体で、ちょっと変形のタブロイドよりもう少し大きいくらいで、表紙だけは2色のもう少し厚手の紙を使って4つ折りにして売ってたんですね。見た目も独特ですが、初めてロックジャーナリズムというものが誕生したと言われています。ロックに興味を持ってる、ちょうどボクらの世代がまさに創刊当初から読んでいたと思うんですけど、ハンター・S・トンプソンの記事が載ると、書き方がほとんどロックに近いものだから、普段政治などにはそれほど興味を持ってない若者も読むんです。当時ボクは二十歳そこそこでしたが、彼の文章を読んで初めて政治に興味をもったと言っていいくらいです。それで彼の記事を読むと、必ずそこにラルフ・ステッドマンの絵がついているわけです、それがまた文章に負けない、毒気づいたすごい絵。とてもユニークなイラストなんですね。

ステッドマンの絵に関しては、もちろんこれから映画をご覧になるわけですけど、ボクがそれまで見ていたのは『ローリング・ストーン』の誌面などでだいたいハンター・S・トンプソンの文章とセットになっていたものなんですけど、あらためて映画で、しかもカラーで見ていると、いかにステッドマンの技術のレベルが高いかがわかりました。風刺画のカリカチュアだから、第一印象は漫画的なんですけど、美術家としても本当に優れた腕を持っている人ですね。

それからステッドマンに関して言えば、oddbinsという全国チェーンの酒屋があるんですけど、そこのカタログで一時期彼が絵を描いていました。普通企業に雇われてカタログで絵を描くとなると、きれいなものだったり、商品をよく見せる絵だったりするんですけど、それがいかにもステッドマンの絵なんですね。なんか皮肉っぽかったり、毒づいた感じがあって、イギリスの企業も捨てたもんじゃないなとちょっと思いました(笑)。あとね、海の歌や海賊の歌を集めた、ハル・ウィルナーというニューヨークの有名なプロデューサーが作った企画アルバムがあるんですけど(『Rogue’s Gallery: Pirate Ballads Sea Songs and Chanteys』)、その中でステッドマン自身が歌ってるものが1曲あります。

英語圏の新聞は、それがかなりインテリな新聞でも庶民的な新聞でも、必ずそういう政治風刺画の漫画が入るんです。それは本当にごく当たり前な存在だと思います。