オバマは ”のろま” なだけ
◇「最大の敗者」は鳩山氏、米紙 核サミットで
「哀れなハトヤマが最大の敗者」。14日付の米紙ワシントンポストは3面のコラムで、核安全保障サミットでの各国首脳外交を総括し、オバマ米大統領と公式の首脳会談を行えなかった鳩山由紀夫首相を皮肉った。
筆者は著名コラムニストのアル・カメン氏。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐる迷走の結果、米政権で鳩山氏に対し「変わり者」「信頼できない」との評価が広まっていると紹介。
首脳会談を申し込んだが受け入れられず「残念賞が夕食会での“非公式”会談。メインディッシュとデザートの間にやったのだろうか」とこき下ろした。
さらに普天間問題を5月中に解決すると約束しながら実現しそうにない現状に触れ「ユキオ、盟友のはずだろう?米国の核の傘で何十億ドルも節約しただろう?」と畳み掛けた。
一方で“勝者”の筆頭には、首脳会談が1時間半に及び主役の座を手にした中国の胡錦濤国家主席を挙げ、オバマ大統領が握手をしながら胡主席に頭を下げている写真が掲載された。
(共同通信 2010年4月15日)
◇オバマのイメージ のろま
オバマ大統領の復活が世界を変える
バラク・オバマ米大統領は、ふせっていた政治の病床から跳び起き、点滴チューブを引きはがした今、オーバルオフィス(大統領執務室)でジグを踊る準備ができたようだ。米議会による医療保険改革法案の承認はオバマ大統領に新たな命を吹き込んだ。このことは米国人だけでなく世界にも影響を及ぼすだろう。
・「弱い大統領」のイメージ覆す
セオドア・ルーズベルトからビル・クリントンまで、何世代もの米国大統領がなし得なかった社会改革を可決させた今、オバマ氏は真に歴史的な功績を示すことができる。実行力のない弱い大統領というイメージが、危うくおのずと現実となる予言になりかけていた時に、オバマ氏はそれを覆したのである。
大統領就任の宣誓を行った時にオバマ氏を取り巻いていた楽観的な光は、この1年間で輝きを失っていった。それに取って代わったのが、あまり芳しくないイメージだ。
話者であって実行者ではないオバマ、世界のタフガイたちに言うなりにさせられるナイーブな大統領、米国右派の憎まれ者、民主党にとって最も安全な上院議席の1つだったマサチューセッツ州の議席を失ったオバマ――といった具合だ。
オバマ氏が医療保険改革を通す力がないように見えたことは、米国内だけでなく世界中で大統領に対する信頼を損ねた。外国人は、上院の手続き上の規則などには関心がなかった。彼らが目にしたのは、議会の圧倒的過半数を押さえ、高い人気を誇るにもかかわらず、重大な国内政策を通せない大統領の姿だった。
医療保険改革を巡る膠着状態は、ある不穏なパターンを生み、諸外国と向き合うオバマ政権の外交にもそのパターンが反映されることになった。大統領就任1年間で、オバマ氏は壮大な目標を打ち出しては、実現し損なうという繰り返しに陥った。
オバマ大統領は中東和平協議を復活させると宣言し、イスラエルに対してパレスチナ領土への入植活動の停止を要求した。しかし和平交渉は実現せず、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は入植について基本的にオバマ大統領を無視した。
・内政の成功、外交でも再出発の好機に
オバマ氏は大統領選に勝利した夜に、「危機に瀕する地球」を最優先課題の1つに掲げたが、米国は外交面で中国に出し抜かれ、気候変動に関するコペンハーゲン会議は大失敗に終わった。
また、オバマ政権はイランの核爆弾開発は絶対に認めないと明言したが、イランの核計画は急ピッチで進んでおり、米国勢はこれまで新たな制裁案に対して国際社会の支持を取りつけられずにいる。アフガニスタン戦争に至っては、オバマ政権は何カ月間も公然と苦悶し、挙げ句の果て、大統領自身さえも納得していないように見える米軍増派を発表した。
オバマ氏は海外で次第に、弱腰で決断力を欠き、無力な大統領として描かれるようになった。医療改革法案の可決を受け、そのイメージは(少なくとも当面は)変わるだろう。その結果、オバマ氏は大統領として国内だけでなく国外でも再出発するチャンスを手にしている。
もちろん、オバマ大統領が米国内で政治的な勢いを取り戻したことと、大統領が外交政策で成功する可能性には、直接的な関連性はない。だが、間接的な関係はある。乱暴な言い方をすれば、医療改革法案の可決によってオバマ氏は敗者ではなく勝者に見えるようになったのだ。また、このことは大統領が粘り強いこと、そして彼の頑固さが成果を生み出せることを示している。
・長期戦の医療保険改革に勝利
医療保険改革は負け戦に見えた。だが、それは実はただの長期戦だった。アフガニスタンや中東、気候変動、イランなどの大きな国際問題でオバマ氏が勝利を収める可能性はないと決めつけていた諸外国の首脳は今、大統領の粘り強さが最終的に成功をもたらす可能性を検討しなければならない。
そうなれば、どっちつかずで揺らぐ指導者がオバマ大統領の話を聞き、協力しようとする可能性が高まる。
オバマ大統領に軽蔑的な態度を取ろうとする外国首脳も考え直すかもしれない。今週は、ネタニヤフ首相のワシントン訪問にとって良いタイミングではない。
ネタニヤフ首相はユダヤ系圧力団体「米イスラエル広報委員会(AIPAC)」の年次総会で演説する予定だ。もし医療改革法案が議会で否決されていたら、同首相はオバマ政権の中東政策に対して米国内の反対意見をあおろうとしたかもしれない。しかし今、オバマ大統領に追い風が吹いている中、大統領との対決はリスクが高い行為に見える。
医療改革法案での勝利は、移り気な識者(筆者は、自分もその1人に数えている)に、オバマ大統領就任1年目の功績について、よりバランスの取れた見解を抱かせる可能性もある。結局のところ、オバマ政権は確かに銀行業界の完全な崩壊を防いだ。また、米国経済は今、年率換算6%近いペースで成長しており、西側のどんな大国よりもずっと高い成長率を誇っている。
・マイケル・ムーア流の米国像、弱める機会
医療改革によって、米国が欧州流の社会連帯にやや近づいた(そして、激しい個人主義という米国自身の伝統から少し離れた)とする米国保守派の意見は正しい。こうした動きがもたらす社会的、経済的なコストと恩恵については議論の余地があるだろう。だが、米国が間接的に外交政策上の成果を得る可能性は高い。
オバマ氏は国としてほぼすべての国民に医療保険を与えることを誓った今、大企業が虐げられた貧しい人々を容赦なく搾取するというマイケル・ムーア流の米国像を弱めることができる。これは言ってみれば、欧州や世界各国に広く浸透している米国像の漫画版だ。オバマ氏の医療改革が可決した今、こうした見方を喧伝するのは難しくなるはずだ。
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2010年3月23日 by Gideon Rachman 日経より)
写真は、14日中国西部青海省チベット族自治州で起こったM7.1の地震により倒壊した建物。15日までに死者589人、負傷者1万人に達する。
山岳地帯のチベット自治州ではいまなお多くが生き埋めになっており、重機はなくほとんど素手で掘り起こすため救助活動が難航している(BBC)。
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