ケニアの試練
大統領選の結果をめぐり、ムワイ・キバキ大統領とライラ・オディンガ氏ら野党勢力との間で暴動が続くケニアで1月10日、アフリカ連合主導による仲裁協議が不調に終わった。今後、キバキ大統領とオディンガ氏はコフィ・アナン前国連事務総長と協力して問題解決にあたっていくことで合意、暴力や事態沈静化を阻害する可能性のある行動は即時中止することで合意が得られた。(AFP 通信)
ところで野党勢力を率いるライラ・オディンガは「Change」旋風を巻き起こしたアメリカのバラク・オバマと親戚なんだそうだよ。ということは、チェイニー副大統領とも(8世代さかのぼる)遠縁にあたるということだ。
◇ケニアのナイロビで記者会見する野党指導者のライラ・オディンガ氏は英BBCラジオとのインタビューで、米大統領選の民主党有力候補であるオバマ上院議員とは親せき関係にあると語った。(時事通信1月8日)
◇大統領選の結果をめぐり国内に暴動が広がるケニアに対し、国際社会は2日、危機的状況の打開に向け外交努力を加速させた。選挙後の暴動は部族間抗争に発展する様相を見せつつあり、これまでに数百人が殺害されたほか、数万人が国内外への避難を余儀なくされている。
・内戦状態への移行を懸念
ケニア大統領選では接戦の末、現職キバキ大統領が勝利し、12月30日に宣誓したが、これに反発して全国に暴動が拡大。その多くは部族間の対立に基づき、敗れた野党候補オディンガ氏は、キバキ大統領に「選挙は盗まれた」と主張している。
キバキ大統領は同国最大部族キクユに属する一方、オディンガ氏は2番目に大きいルオの出身。選挙後の暴動は明らかに部族間の様相を呈し始め、報復攻撃や標的が絞られた放火などにより、さらなる部族間抗争へ発展する可能性が懸念されている。
「殺害を犯した者を逮捕するなどの措置が緊急に取られない限り、ケニア情勢は混迷を深め、想像を絶する規模の虐殺が起こったアフリカ諸国と同様の内戦状態になりかねない」と、2日付の日刊紙「デイリーネーション」は警鐘を鳴らした。
国内の医療関係者、警察関係者、遺体安置所職員などの話からAFPが独自に集計した統計によると、選挙投票日から現時点までの死者は316人に上る。中でもオディンガ候補が広い支持を集めた西ケニアにおける暴動が最も激しい。
・殺害を恐れ隣国ウガンダへ
隣国ウガンダ当局の報告によると、ケニアからキクユ族の住民数百人が、オディンガ候補に忠誠を誓う暴徒たちによる殺害を恐れ、国境を越え避難してきているという。
紛争や武力衝突の多いアフリカの周辺地域の中で、ケニアは一般的に民主主義の旗手とみなされ、安定している国。今回の暴動のレベルは異常事態といえる。
首都ナイロビ中心部では1週間の混乱からようやく通常に近い状態を取り戻している。スーパーやガソリンスタンドには長蛇の列ができ、人々は仕事に戻り始めた。
(AFP 通信1月3日)
◇多民族が混乱抑制要因か
2003ー2006年、駐ケニア米大使を務めたマーク・ベラミー氏は「ケニアの民族構成の特徴は多様性。ルワンダやブルンジとは異なる」と指摘する。
1990年代に民族紛争から数十万人が犠牲となったルワンダとブルンジは主にフツ族とツチ族から成るが、ケニアでは少なくとも42の部族が存在している。
不正操作の疑惑を持たれながらも前週再選を果たしたキバキ大統領は、キクユ族の出身。ケニアでは最近、キクユが政財界を支配してきた。
キクユは、人口3700万人のケニアにおける最大民族であるが、全人口の22%を占めるにとどまっている。これは、ほかの民族を差し置いて完全に支配できる民族はないことを意味する。
・政治家らの資金源は国内に
ケニアの弁護士で政治評論家のジョン・オティエノ氏は「皆が民族間の争いとみているが、そうではない。絶対権力を有する政府は存在しないという事実を含めた、国民の権利を実現している社会の問題なのだ」と強調する。
ケニアの政治学者マリ・ムツア氏は、野党を率いるオディンガ氏は近く政策を転換すると予測。「死者が増加することで、オディンガ氏は孤立し、国民が彼を英雄とみなすことができるような方法で、混乱を解決しようとするのでは」という見方を示している。
またほかの専門家は、ケニアには政治家たちが外に向かって「ふていな冒険」に打って出られない障壁があるという。それは「政治家たちの利害関係が国内にあって海外にない」という点だと指摘。
ある駐ナイロビ外交官は「ケニアの有力者らは国内に資金を有しており、それが、同国を崩壊させない理由だ」と解説する。
(AFP 通信1月4日)
◇オディンガ氏は7日、国際社会の仲裁活動が本格化してきたことを受け、同国全土で行われていた抗議活動を中止すると発表した。事態の鎮静化に向けキバキ大統領側から直接会談の提案が出されるなか、前年12月27日以来続いている暴動の死者数は600人以上に達している。
また、オディンガ氏は、アフリカ連合主導による仲裁協議が9日に開始されることも明らかにした。これに関し、ガーナのジョン・クフォー大統領の側近も、AU議長と同大統領が9日に仲裁のためケニア入りすることを明らかにしている。
さらに、ケニアの大統領報道官は7日、キバキ大統領が大統領選挙後初めてとなる直接会談を行うためオディンガ氏を招請したとする声明を発表した。会談は、ほかの5つの党の指導者も参加して11日午後2時30分に行われる予定で、事態の沈静化や国民融和について話し合われるという。
国連機関からは集団虐殺の様相を呈しているとの声もあがっている。また、これまでに約25万人が避難を余儀なくされているという。
(AFP 通信1月8日)
◇ケニアの港町モンバサでは7日、略奪者らが略奪品を返したり捨てたりするケースが相次いでいる。警察当局によると、略奪品に「呪いがかけられた」とのうわさが広がり、略奪者らが恐怖にかられたからだという。
うわさは、略奪の被害者たちが「盗人に罰が下るよう」呪術師に呪いをかけさせたというもの。警察もこのうわさを確認しており、「呪術師のおかげで略奪者を摘発しやすくなった」と語っているという。
モンバサの住民は、アフリカの多くの共同体と同じく、呪術師の力に絶大な信頼を寄せており、呪術師には悪霊を呼んだり退散させたりする魔力があると信じている。
TVのニュースでは、略奪者らが青ざめた表情でベッドやソファなどを所有者に返す様子が映し出されている。(AFP 通信1月8日)
◇エルドレット(ケニア西部リフトバレー州):大統領選を巡って混乱するケニアで暴動被害が最も深刻な西部リフトバレー州に7日入った。襲撃対象となったキバキ大統領の出身民族キクユの住民や地元の人権団体職員は、同州内での襲撃について、対立する地元のカレンジンの村々の首長らが選挙の混乱に乗じ実行した組織的犯行だったと証言した。民族対立は泥沼化している。
同州には元々、カレンジンが住んでいたが、政府が70年代にキクユの集団入植を進め、現在は混住する。両者は土地所有などを巡って以前から対立し、大統領選ではキクユがキバキ氏、カレンジンが野党「オレンジ民主連合」のオディンガ氏を支持して緊張が高まっていた。
エルドレット近郊のシレット村には選挙結果発表(30日)の翌日午後1時ごろ、近隣の村々のカレンジンの若い男約200人が押しかけ、キクユの家々に放火した。同村のキクユの小学校副校長、ピーター・カグタさん(45)宅にも男たちが来たが、中にかつての教え子がいた。
カグタさんによると、教え子は「村長らが出席した会合でキクユを襲うことが決まり、動員された」と告白し、襲撃対象のキクユの名が書かれた紙を見せた。カグタさんの名もあったが、教え子は「先生を殺すことはできない。早く逃げて下さい」と言い、立ち去ったという。カグタさんは「暴動は周到に準備された」と言う。
エルドレット近郊のキアンバ村では1日、キリスト教会が放火され、避難していたキクユ約30人が殺害された。現場にいた地元の人権団体「RPP」職員、ヘンリー・マイヨさん(39)は、放火の様子をノートに克明に記録していた。
記録によると、キアンバ村に隣接するカレンジンの村から他の村々へ「集合」するよう伝令が走り、カレンジン数百人が教会前に集まった。リーダー格の男が「教会を焼く」と宣言し、何人かは放火に反対し教会内のキクユの子供を外へ逃がそうとしたが、そのまま火は放たれた。
カレンジンのマイヨさんは「カレンジン有力者の中には入植者のキクユを追い出したいと考える人がおり、大統領の不正選挙でキクユの立場が弱まるのを狙って襲った。でも、なぜ子供まで」と目頭を押さえた。
(毎日新聞1月9日)
◇ケニアは1991年、1党独裁から複数政党制に移行。92年、民主化をめぐる対立が表面化し、カレンジンと他民族の衝突が激化し、93年にはリフトバレー州では約1000人が死亡、25万人が家を失った。
ケニアはサファリ観光で世界的に人気が高く、安定した国と見られている一方、42民族の混在という火種を抱える。今回は大統領選が原因だが、貧富の差やはびこる汚職で人々は不満を抱えており、爆発のきっかけは何でもなりうる。背後で政治家が金銭で対立をあおっているとも言われる。
エルドレトからナイロビに向かう幹線道路は数キロにわたり、町の主流派種族カレンジンが石や電柱で封鎖。男性が通行者の身分証明書を確認し、キクユ族を捜していた。
沿道では、全焼した白いワゴン車の横に黒い物体が二つ見えた。近付くと、男性2人の遺体だと分かった。すぐに百数十人の男らが、ナタやこん棒を手に集まってきた。
男らによると、ワゴン車は救急車。31日、「遺体を運搬中」と言って通ろうとしたが車内に遺体はなく、運転手らはキクユ族だった。約50人が2人を殺害し、ガソリンで燃やしたという。
大統領選をめぐる対立は解決の見通しが見えない。内外からの説得工作はあるが、キバキ、オディンガ両氏とも様子見を続けている状態だ。避難民キャンプでも居場所が民族ごとに分けられ、聞こえてくるのは互いの悪口ばかりだ。
写真は石で封鎖をするエルドレトからナイロビに向かう幹線道路
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