睡眠中の女性と子どもを殺しても無罪
昨年12月26日、イラクに駐留する米兵がパトロール中に合同で任務についていたイラク兵によって射殺されたというニュースを憶えていますか。1月6日の新聞やNHKニュースで報じていました。東京新聞では、射殺は「事故ではなく計画的だった」と述べたうえで、「このイラク兵は(反米)武装勢力の協力者だった」とのイラク軍高官のコメントを載せています。
・米軍などによると、北部モスルで戦略上の拠点施設を建設していた際、イラク兵が米兵らを射殺。イラク兵は拘束され、スンニ派武装勢力と関係があると判明した。ロイター通信によるとイラク兵が故意に米兵を殺害したことが明らかになったのは旧フセイン政権の崩壊後、初めてというーー。
そして、「米軍はイラク軍の育成強化を治安改善のカギと位置付けているが、治安部隊にはイスラム教シーア派民兵組織やスンニ派武装勢力が浸透しており、いずれ米軍へ矛先を向ける可能性が指摘されてきた。懸念が現実化したことで、米軍の今後の活動や部隊強化、治安権限移譲などに影響が出る可能性がある。」と結んでいた。
ところが、ロイターの記事は射殺にいたった経緯について別の顛末があることに触れていました。
ロイターはイラクのモスリムウラマー協会(モスリム聖職者協会)が公開した声明文を紹介していた。声明によると、「米兵がイラク人妊婦を殴りつづけたので、女性を守るためにイラク兵士は発砲した」というのです。
・彼は憤慨して、占領軍(米軍)の兵士らに「女性を殴るのは止めろ」と抗議しています。でも、通訳から伝えられた返事は「何をしようとオレたちの勝手だ」でした。そこで彼は米兵に向けて発砲しましたーー。
これについてのロイターの質問に米軍広報官は、「いまも調査は続いているが、米兵が女性に暴行を加えたことを示唆する事実は何もない」と疑惑を否定している。
日本の報道はどうも米軍とイラク軍部から出たものしか採用しなかったようだが、中国の政府系通信社はロイターの特にその部分を赤線を引くように伝えていた。見出しは、「イラク兵に殺された米兵は妊婦を殴った」である。
さらに6日のイラク独立系メディア、アスワトアルイラク(イラクの声)がウェブサイトに事件に関する記事を掲載した。ここでは別の嫌疑が米兵らに投げかけられている。
・アメリカ当局は、事件の現場に一般市民がひとりもいなかったとして、イラク兵士が発砲したのは米兵がイラク人少女に性的嫌がらせを行ったからだという嫌疑を否定したーー。
妊婦に暴行と、少女に性的嫌がらせ?イラク人女性、リバーベンドのブログを読んだことのある人なら、大いにありうる話だということがよくわかる。といっても、アスワトアルイラク(イラクの声)の情報源はよくわからない。ではこれならどうだろうか。IPSインタープレスサーヴィスに記事を書く、世界で圧倒的支持を得ているジャーナリスト、ダール・ジャマイルとチームを組むイラク人非従軍記者の速報を紹介しておく。米軍の占領以降、イラク人ジャーナリストとメディア関連の犠牲者は278人。彼はここではアリと名乗っている。
アリは事件を目撃したイラク市民を捜し出し、電話でインタヴューしている。イラク兵士の親族にも取材して事実関係を確かめた。部族長に聞いた話も事件の背景を知る上で有効的だった。
◇1月7日、バグダッドーー。
2人の米兵がイラク兵士に殺害された事件によって、活動をともにするイラク人と米軍の関係に懸念があることが明らかになった。
昨年12月26日、北部の街モスルで、合同パトロールを行っていたイラク兵士が米兵に向けて発砲し、大尉と軍曹を殺害、イラク人通訳をふくむ3人を負傷させた。
この殺傷事件に関しては、これまで異なる報告が出ていて、互いに矛盾している。イラク兵士の叔父にあたるハジム・アルジュブーリ大佐が取材に答えた。甥のカイサル・サーディ・アルジュブーリは米兵らに女性を殴るのを止めるよう求めたが拒否されたので発砲したという。
「カイサルはプロの兵士です。アメリカ人らが女性の髪をつかんで乱暴に引きずり回したので反抗しました。彼は部族の男です。誇り高いアラブ人でもある。あのような乱暴を許すことはできません。カイサルは上官である大尉と軍曹を殺しています。自分が処刑されることは覚悟の上でした」
事件を目撃したモスルの住民が同様の証言をしている。
「アメリカ軍の大尉が、部下を連れて近所の家に踏み込むのを見ていました。女たちを怒鳴りつけて男どもはどこにいるんだと聞いていた。誰かを捜していたのでしょう。女たちが知らないと答えた。家の男たちは何も悪いことはしていないと訴えながら、恐ろしさに泣き出しました」
そこで大尉が怒鳴り始めると、米兵らは女性たちの髪をつかんで引きずり回したという。
「後になってカイサルだったとわかったのですが、イラク兵士はアメリカ人らに止めろ、止めろと大声を上げた。大尉は怒鳴り返した。するとイラク兵士は畜生ども、女たちから手を離せ!と叫んで銃を撃ちはじめました」
そして兵士はその場から逃亡したという。
スンニ派の組織、モスリム聖職者協会は、声明文を公開して、イラク兵士は米兵らが妊婦を殴るのを見て発砲したと訴えている。
協会の声明は、まず衛星放送チャンネル「アルラフィダイン」が伝え、すぐにイラク中の話題となった。イラク人の名誉を守るために犠牲となった「英雄」の物語をだれもが口々に話していた。
米軍とイラク軍は、筋立ての異なる話を伝えている。取材に応じてくれたイラク軍大将によると、カイサルが攻撃したのは「スンニ派武装グループ」とつながりがあったからだという。
また、イラク陸軍第2師団に所属する大尉は次のように述べた。
「カイサル・サーディは武装グループの手先だ。彼は、グループに命じられて軍の動きを同志に報告していた。そういう奴らは陸軍にたくさんいる。覚醒と呼ばれる(米軍が資金提供している武装グループの)部隊にも入り込んでいる」
勇敢な行為だったと陰でカイサルを讃える陸軍将校もいた。
「アメリカ人にはいい薬になっただろう」
大部族アルバガラの長、シェイク・ジュナ・アルダワルはバグダッドでこう話してくれた。
「カイサルはガヤラのアルジュブール部族の出身です。あの部族は、アメリカ人には理解できない倫理観を持っています。カイサルは、ジュブール部族だけでなく、すべての部族の誇りであり、英雄となりました。彼の名が忘れられることはないでしょう」
同様の思いを語るイラク人は多い。派閥に属さないバグダッドの政治家、モハマド・ナシルは次のように話した。
「この事件によって、イラクの人びとは絆を失っていないことがまた明らかになりました。アメリカ人たちが、手なずけた者どもを操って、政治でなにを画策しようとも、この絆は切れない。人びとはカイサルを愛し、身の安全を祈っています。彼を守るためなら、喜んで何でも差し出すでしょう」
アルジュブーリ大佐によると、カイサルは米軍と活動を共にするようになってから「あまりにひどい現実を知って我慢できなくなっていた」という。
「わたしもアメリカ人に協力しました。自分は職業軍人ですし、彼らがイラク人を助けてくれると信じてもいた。しかし1年もたたないうちに、占領軍に手を貸すくらいなら飢えて死んだほうがいいと思うようになった。アメリカ人はひどいことばかりする」
政治的に偏見がないと思われる筋からの情報によれば、アメリカとイラクの混成部隊に捕らえられたカイサルは、モスルのアルギズラニ基地に拘禁されて拷問を受けているという。
最近、占領軍の戦死者数は減少している。それでも米国防総省の発表によると、2007年には901人の米兵が命を奪われ、最も犠牲の多い年となった。
◇イラク兵による米兵射殺事件は、ハディーサ虐殺事件に象徴されるように、米兵がどんな残虐な行いをしようとも罪に問われない現状を背景としている。1月4日、射殺事件が発覚する前日、米海兵隊は、ハディーサで子どもや女性をふくむ24人の市民を殺害した海兵隊員を、ひとりも殺人罪で起訴しないと決定した。
(ワシントンポスト紙1月4日)
殺された子どもや女性のほとんどは睡眠中だった。
アリの記事はTUP ヤパーナ社会フォーラムより転載 全文はTUPでお読みください。(転載歓迎に感謝します)
写真はイラクに建設中のアメリカ(帝国)大使館。8日の予備選で勝利したヒラリーもマケインも中東政策ではよく似ている。
ヒラリーは、イラク領土に米軍基地を恒久的に置くことを2年前から示唆しており、ブッシュ・チェイニーの政策とうり二つ。マケインにいたっては1月3日ニューハンプシャーで、米軍によるイラク占領が「100年つづくかもしれない」が、「私はかまわない」と述べたのと、イランについては昨年4月サウスカロライナの講演で、ビーチボーイズの曲にあわせて「爆撃、爆撃、とにかく爆撃」と歌ったのだ。
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