見つけた 犬としあわせ

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2010/07/12

マンデラの大会 アフリカの花火




◇ヨハネスブルグ:ワールドカップ(W杯)で優勝するのは、どのチームにとっても簡単ではない。だが、いずれも初優勝をかけた世界最高の2チームの対戦ともなれば、なおさらだ。

したがって、80年間ものいら立たしい年月を過ごしてきたスペインにとって、何よりも愛するこの競技で世界チャンピンになるための決勝点を挙げるのに、余分な時間がかかったとしても仕方なかっただろう。

11日に行われたサッカーW杯決勝戦、スペイン対オランダ戦は、スペインが1対0でオランダを破り、W杯初優勝を果たした。待望のゴールは、延長後半に入ってから11分後にようやく生まれた。スペイン代表ミッドフィールダー(MF)イニエスタが、オフサイドラインぎりぎりの微妙な位置から右足でシュートを放ち、オランダ代表ゴールキーパー(GK)ステケレンブルフがボールを左手で触るも、ゴールを阻止するには至らなかった。審判のお粗末な笛裁きで荒れ模様となった試合の最後にふさわしく、オランダ人選手が審判団にオフサイドの判定を求めて詰め寄ったが、オフサイドフラッグは決して上がらなかった。

ゴールは、延長後半開始から5分、オランダ代表ディフェンダー(DF)ヘイティンガがこの日2枚目(チーム全体で9枚目)のイエローカードを受け、退場となった直後に生まれた。これはオランダにとって予選を含めた過去25試合で初の敗戦であり、W杯で準決勝まで無敗で勝ち残ったチームが決勝で負けるのも今回が初めて。

スペインは、ブラジルと並んで今W杯優勝の最有力候補に挙げられており、これまでとは異なるシナリオを描く覚悟で今大会に臨んでいた。決勝直前の3試合をすべて1対0で勝利しており、決勝も同じスコアだったが、その内容は他の3試合と大きく異なるものだった。

サッカーにおいては、決勝戦のようなハイレベルの戦いともなるとその意志の強さが試される、両チームが互いのスタイルを押し通そうとするチェスのような試合展開になる。戦いはボールだけでなく、試合のペースやリズム、流れの支配をめぐって繰り広げられる。激しいぶつかり合いになろうとも、また短くコントロールされたパスであろうが、サイドラインぎりぎりのロングパスであろうが、フォワード(FW)もDFも力一杯追いかける。

W杯が始まって1カ月、スペインは相手チームにかかわらず、自らのスタイルを押し通してきた。スイスに負けを喫した初戦でさえも、スペインはボールとゲームを支配し、サッカーをハイクラスの鬼ごっこに変えることで相手チームにボールを追いかけさせ、体力を消耗せざるを得ない状況に追い込んでいった。

だが決勝戦では、オランダも断固として自らの意志を押し通そうとした。スペインのペースを崩そうと体当たりやタックル、けりなどを盛んに仕掛け、相手選手に対してボールに近づこうとすれば格好の的となり、スパイクの裏ですねをけられるか、頭にひじ打ちを食らうかしかねないとの恐怖心を植え付けようとした。

それは決して美しい行為ではない。だが、2年前にファンマルバイク監督がチームを引き継いだときから、オランダは美しいサッカーを捨てた。同監督は、勝利よりも芸術性を優先してきた過去40年を捨て、泥臭く勝つことを学ぶときだと宣言した。

試合前半をとおして、オランダは相次ぐ激しいタックルでスペインを攻撃した。前半中盤にはオランダ代表DFデヨングが、スペイン代表MFシャビアロンソの胸をスパイクの裏でけるという、あわやレッドカードかと思われるようなプレーもあった。

オランダは最終的に全部で9枚のイエローカードを受けた。だが、オランダがスペインを自らのプレースタイルに引きずり込むのに成功した証拠に、それまで6試合でイエローカードが累積3枚と最もフェアなチームの1つであったスペインが、この試合の最後には結局8枚ものイエローカードを累積することになった。

オランダにとってのチャンスは、試合開始60分にやって来る。オランダ代表FWロッベンがスペインゴールから30ヤードの地点で絶妙なスルーパスを受け、ゴール前に抜け出す。だが、スペイン代表GKカシージャスがゴールから飛び出し、ロッベンの足元付近に滑り込み、右足でわずかにボールに触ってコースをそらす。ボールはそのまま左のゴールポスト外側に転がっていく。

その23分後、再びロッベンがゴール前に抜け出すも、またもやカシージャスに阻まれ、結局シュートにまで持ち込めずに終わる。

やがて試合は延長戦に入り両サイドでいくつかチャンスが生まれるが、運やGKの素晴らしいセーブ、屈強なディフェンスなどに阻まれ、いずれのサイドもフィニッシを決めきれずに時間が過ぎていく。だが延長後半11分、オランダのペナルティーエリアの混乱からゴールが生まれる。スペイン代表FWトーレスのクロスが、オランダディフェンスにクリアされ、スペイン代表MFセスクの足元に落ちる。セスクがすかさずパスを送るとイニエスタが右サイドからフリーで抜け出し、ゴールから5ヤードの地点でボールを受け、軽くトラップした後、ネットにたたき込む。

ボールがネットに刺さるのを確認すると、イニエスタはシャツを脱いでピッチの隅に走り寄り、80年かけて達成したW杯の優勝を祝福し始めてしまう。その6分後、試合終了となり、スペインの優勝はこの時点で正式なものとなった。

W杯の決勝は毎回そうだが、今回も素晴らしい試合となった。だがこれまでのW杯と違うのは、今回はアフリカ大陸で初めて行われた決勝だったことだ。決勝の地、サッカーシティー競技場に集まった8万4490人のサポーターはこの決勝が単なる試合以上の意味を持つことを、キックオフの1時間ほど前に思い起こさせられた。

めったに人前に姿を現さない南ア初の黒人大統領、ネルソン・マンデラ氏が会場を訪れたのだ。現在91歳のマンデラ氏は、明るい表情を浮かべていたものの、やや弱々しく見えた。3番目の妻、グラサ・マシェル夫人とともにカートに乗り込み、観衆に手を振りながら競技場を1週した。

マンデラ氏は、南アでのW杯開催に向けてロビー活動を支援したが、競技場に現れるのは今回が初めてだった。1カ月前のW杯初戦に来場を予定していたが曾孫の1人が交通事故で亡くなったため、急きょキャンセルされた。だが、われわれはマンデラ氏の存在をW杯を通じて終始感じることができた。アフリカのあらゆる人種の人たちが、マンデラ氏の運動に賛同し、このイベントを、南アとアフリカ大陸の一種の正当性を宣言する方法として利用した。

その3時間後、手を振っていたのは今度はスペインの選手だった。花火が盛大に上がり、紙吹雪が舞い散る中、チェスのキングから、サッカー界の王者となった選手たちはピッチの上を踊り回っていた。

(ウォールストリートジャーナル日本版 2010年7月12日)
http://jp.wsj.com/Life-Style/node_81394

写真は試合前のセレモニーにカートに乗って登場したネルソン・マンデラ(CNN)
優勝トロフィー授与のセレモニーが始まる間、スタジアム全体にボブ・マーリーの曲が流れていたのもアフリカならではのもの
誰がなんと言おうと、この大会はマンデラのものだ
そしてカーシージャス、あんた とっても かっこよかったよ!